説明
英国王室が愛した「家族の肖像」:バーバーが描く犬たちの物語
本コレクションは、ヴィクトリア女王の寵愛を受けた宮廷画家チャールズ・バートン・バーバーによる、犬の肖像と情景画の傑作5選です。
大英帝国の象徴としての品格を描いた《Darnley》に始まり、空間と役割の対比を示す《Noble》の二作、そして「家族」としての絆を象徴するパグや日常の仲間たちへ。この5点は、犬たちが「忠誠の象徴」から「親密な家族」へと移り変わっていく、ヴィクトリア朝の精神史を辿る旅でもあります。全作品に共通する「Vカット台紙と金モール調の額装イメージ」が、英国王室のサロンのような統一感ある空間を演出します。

① 《Darnley》:高潔なる忠誠の肖像
ヴィクトリア女王の愛犬とされるコリーを描いた、本セットの核となる一作。物語的な演出を排し、犬を「一人の人格(犬格)」として真っ向から捉えた肖像です。その知的な眼差しと落ち着いた佇まいは、王室の品位と節度を体現しており、観る者に静かな感動を与えます。

② 《Noble(庭で寝そべる)》:静寂の番人
同名のコリー犬が、庭園という「家庭と社会の境界」で見せる半覚醒の姿。休息の中にも宿る凛とした警戒心は、支配ではなく「責任」によって家を守る理想的な忠誠心を象徴しています。屋外の光が毛並みを美しく照らし出す、バーバーの写実力が光る逸品です。

③ 《Noble(赤い絨毯の室内)》:信頼の極致
格式高い赤い絨毯の上で、完全に警戒を解いて横たわる姿を描いています。②の屋外作品とは対照的に、ここでは「守られる側」としての安心感と全幅の信頼が主題です。王室という権威ある場所が、愛によって支えられた温かな「家庭」であることを物語っています。

④ 《A Family of Pugs》:情愛のコミュニティ
七匹のパグが成犬・子犬の垣根を超えて集う、非常に珍しい構成の作品です。上流階級に愛されたパグを「家族」という単位で描くことで、ヴィクトリア朝が重んじた「家庭の美徳」と「無垢な親密さ」を、人間を介さずに犬たちの姿だけで描き出しています。

⑤ 《Snowball, Marco, Janey》:名前を持つ仲間たち
実在の名前を冠した三匹の犬たちの集合肖像。ここでは犬はもはや象徴ではなく、共に日常を歩む「かけがえのない個人」として尊重されています。序列のない穏やかな関係性は、現代にも通じる「ペットとの共生」の原点を見せてくれる、極めて現代的な一作です。
自分のためにも、
大切な人への贈りものにも。
作者紹介
Charles Burton Barber(チャールズ・バートン・バーバー)
Charles Burton Barber (Official Animal Painter to the Queen)
生年:1845年、没年:1894年。動物画(特に犬)、子どもを含む家庭的情景「ヴィクトリア女王の公式動物画家」
ヴィクトリア女王が最も愛し、信頼した伝説の宮廷画家
チャールズ・バートン・バーバーは、19世紀後半のイギリスを代表する動物画家・風俗画家です。特に「子供とペット」を組み合わせた情緒的な肖像画で絶大な人気を博し、ヴィクトリア朝時代の家庭の理想像を鮮やかに描き出しました。
■おもな業績と作風
彼の作品の最大の特徴は、動物たちの毛並みや表情を写真のように緻密に捉える高い写実性と、見る者の心を掴むストーリー性にあります。子供たちの無垢な姿と、それに寄り添う犬たちの忠誠心や愛らしさを描いた作品は、当時からカレンダーや広告(レバー・ブラザーズの石鹸広告など)に多用され、大衆文化にも深く浸透しました。代表作には『サスペンス(Suspense)』や『学校へ(Off to School)』などがあり、動物に対する深い洞察と愛情が表現されています。
■英国王室との関係〈ヴィクトリア女王の公式動物画家〉
バーバーはヴィクトリア女王から非常に厚い信頼を寄せられたお抱え絵師の一人でした。「ヴィクトリア女王の公式動物画家(Official Animal Painter to the Queen)」という肩書きは、単なる名誉職以上の、非常に親密で実務的な信頼関係に基づいたものでした。
1. 王室の「家族の一員」としてのペットを描く
ヴィクトリア女王にとって、犬や馬は単なる愛玩動物ではなく、深い愛情を注ぐ「家族」でした。バーバーに与えられた任務は、単にかっこいい姿を描くことではなく、その子自身の性格や、女王との絆を記録することでした。
- 専属の記録係: 女王は新しい犬を飼い始めたり、お気に入りの犬が年老いたりするたびに、バーバーを呼び寄せました。
- 写真以上の温もり: 当時すでに写真は存在していましたが、女王はバーバーの描く「動物の目に宿る感情」や「柔らかい毛並みの質感」を好み、生涯で数十点もの制作を依頼しました。
2. 女王自らが「ディレクター」を務めた
バーバーが城に呼ばれると、女王は忙しい公務の合間を縫って制作現場に現れました。
- 熱心な指示: 女王は非常にこだわりが強く、「この子の足はこの角度で」「この表情をもっと忠実に」と、バーバーの横で細かくポーズの指示を出したと言われています。
- 特別なアトリエ: バーバーはウィンザー城やオズボーン・ハウスの中に、彼専用の作業スペースを与えられていました。これは、彼が「いつでも呼べばすぐに描いてくれる存在」として重用されていた証拠です。
3. 死後の葬儀に「女王の花輪」が届く異例の厚遇
彼が49歳の若さで亡くなった際、ヴィクトリア女王が示した哀悼の意は、お抱え画家に対するものとしては異例でした。
一介の画家が、君主からこれほどまでに個人的な情愛を向けられるのは、当時の階級社会では非常に珍しいことでした。
女王は彼の葬儀に自ら花輪を贈り、「わが愛する友人であり、類まれなる才能を持った画家へ」といった趣旨のメッセージを添えました。









