『冬晴るる』

夕食のあとだった。

「ピアス、開けたいんだけど」

娘は、テレビも見ずに言った。

「高校生だろ」

即答だった。
そこからは、声が少しずつ大きくなる。校則。責任。まだ早い。
最後に娘が「お父さんには関係ない」と言って、部屋に戻った。

関係ない、か。

リビングに一人残る。
グラスの氷が溶ける音だけが、やけに響く。

壁に掛けたポストカードが目に入った。
光を浴びて踊る少女。
白い衣装が、舞台の中央でひるがえっている。

その少し奥、暗がりに立つ黒い影。

昔は、あの影を嫌な存在だと思っていた。
舞台の主役に近づく、得体の知れない男。

けれど今は、あの位置が妙に落ち着く。

光の中には立てない。
かといって、背を向けるわけでもない。
半分だけ関わり、半分は引いている。

たぶん私は、光のほうへ踏み出していく彼女を、少し眩しく思っている。

十七のころの自分を思い出す。
バンドでデビューすると本気で信じたり、
急に漫画を描くと言い出したり、
どこへ向かうのかも決めないまま、ただ熱だけで動いていた。

それに比べれば、あの子はずっと現実的だ。
進路も考えているし、やるべきことも分かっている。

娘の耳に穴が開くことが問題なのではない。
たぶん私は、自分の十七歳と向き合わされている。

翌朝、娘は無言でパンをかじっている。
私は新聞を広げたまま言った。

「大学、決まったらな」

顔は上げない。

「そのとき、一緒に行くか」

返事はなかった。
けれど、椅子を引く音が少しだけやわらいだ。

窓から差す朝の光が、床に長く伸びている。
娘はその中を横切り、玄関へ向かった。

ドアが閉まる。

光はまだ、部屋の真ん中に落ちている。
私はその端に立ったまま、しばらく動かなかった。

【印象派をめぐる十の絵、十の物語:第七話】


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※本解説は、作品を味わうための一つの見方として構成したものです。 見る方それぞれの経験や感性によって、異なる春の表情が立ち上がることを、ぜひ楽しんでいただければ幸いです。
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