『青い森の問いかけ』

グラウンドを走っているときだけは、何も考えなくてよかった。

高校三年の夏。大会は終わり、スポーツ推薦での進学はほぼ決まっている。成績も、評価も、周囲の期待も、きれいに揃っていた。
僕の前には、まっすぐな道が敷かれているはずだった。

進路指導室の扉を開けるまでは。

「大学に行くのはいい。で、その先は?」

教師は静かに言った。

「その先、ですか」

「十年後、君は何をしている?」

うまく答えられなかった。
次の大会、その次のシーズン。そんな単位でしか未来を考えたことがない。十年後なんて、地図の外側だ。

放課後、図書室で偶然開いた画集に、深い青の絵があった。

右に幼子、中央に若者、左に老いた人。
ひとつの画面の中に、時間が横たわっている。

中央の若者の姿に、目が止まった。
何かに手を伸ばしている。その先にあるのは、果実なのか、それともただの色なのか、判然としない。

今の自分も、同じ位置に立っているのだと思った。
推薦という果実に、手は届く。
けれど、それを取ったあと、どこへ向かうのかは決めていない。

今まで、僕は「与えられた道」を速く走ることだけを考えてきた。
道を選ぶ、という発想がなかった。

教師の問いは、進学先を変えろという意味ではなかったのかもしれない。
その道を、自分の意志で歩くのかどうか。それを確かめたかっただけなのだ。

翌日、もう一度指導室を訪れた。

「まだ分かりません」

正直にそう言った。

「でも、決まった道をただ走るだけにはしたくないです」

教師は小さく頷いた。

帰り道、夕暮れのグラウンドは青く沈んでいた。
あの絵の色に似ていると思った。

未来は相変わらず深い。
けれど、暗いとは感じなかった。

問いは消えていない。
ただ、それを他人に預けたままにはしないと、ようやく思えただけだ。

【印象派をめぐる十の絵、十の物語:第九話】


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※本解説は、作品を味わうための一つの見方として構成したものです。 見る方それぞれの経験や感性によって、異なる春の表情が立ち上がることを、ぜひ楽しんでいただければ幸いです。
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