青い椅子の重力
家族旅行の二日目。
朝のロビーは、ガラス越しの光で明るかった。
けれど、その一角だけ空気が止まっていた。
青い大きな肘掛け椅子に、まーちゃんが沈んでいる。
5歳。短い足を投げ出し、ぬいぐるみみたいに固まっていた。
「そろそろ行こうか」
母がしゃがみ込む。
返事はない。視線も合わない。
父と姉は車を回しに行っている。
時間だけが進んでいく。
どうして動かないのか。
眠いのか、お腹が空いたのか。
理由を探すほど、椅子は重くなっていくみたいだった。
そのとき、自動ドアが開いた。
「まーちゃん!」
戻ってきた姉が、小声で言う。
「これから行くところね、おっきなウサギいるんだって」
まーちゃんのまぶたが、ぴくりと動いた。
「……おっきいの?」
「うん。すっごく」
次の瞬間、青い椅子から体がするりと抜けた。
さっきまでの重力が嘘みたいに。
「ママ、はやく!」
母の手を引いて走っていく後ろ姿を、私は少し遅れて追いかけた。
椅子だけが、ぽつんと残る。
後日、家で何気なく眺めていた一枚の絵。
深い青の椅子に、斜めに体を預けた少女。
あの日のロビーと、よく似ていた。
退屈しているようで、どこか跳ねる寸前の姿。
沈んでいるようで、まだ何かを待っている目。
あの朝、椅子が重かったのは、
きっと彼女が重かったわけじゃない。
次の楽しみが、まだ届いていなかっただけだ。
旅行先の写真を見返すと、
ウサギの前で笑っている小さな影がいる。
青い椅子の重力は、
ほんの数分のものだったらしい。
【アートポスター】『青い肘掛け椅子に座る少女』アリー・カサット
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※本解説は、作品を味わうための一つの見方として構成したものです。 見る方それぞれの経験や感性によって、異なる春の表情が立ち上がることを、ぜひ楽しんでいただければ幸いです。
※画面で見ている色と、実際にプリントした色は、どうしても少し違って見えることがあります。これは、モニターの表示方法やプリント用紙・インクの違いによるものです。その点をご理解のうえ、お楽しみいただければ幸いです。
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